国際頭痛学会提唱の「コア・カリキュラム2026」から考える、頭痛学習法

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頭痛を専門とする脳神経内科医。 診療のTipsや最新のエビデンス、医学教育、学会発表、講演、論文まで、頭痛を「学び、診て、伝える」ための情報を発信しています。 脳卒中専門医として、脳卒中のEBMも扱います。
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頭痛を勉強しようと思ったときに意外と困るのが、

「何をどこまで勉強すればよいのか」という問題です。

片頭痛だけでも、診断基準、病態、急性期治療、予防療法、CGRP関連薬……と
勉強することはたくさんあります。

そこに、群発頭痛などの三叉神経・自律神経性頭痛(TACs)、二次性頭痛、神経痛まで
入ってくると、一気に範囲が広がります。

頭痛を専門にしていない脳神経内科医なら、「日常診療では、どこまで知っておけばよいのか」と迷います。

逆に頭痛専門医になっても、「専門医として、次は何を深めればよいのか」という
別の悩みが出てきます。

そんな頭痛の勉強法を考えるうえで参考になるのが、
2026年にInternational Headache Society(IHS)が公表した
Headache Medicine Core Curriculumです。

このカリキュラムの面白いところは、頭痛医学で学ぶべき内容を並べただけではないことです。

一般脳神経内科医と頭痛専門医で、求められる到達レベルを分けています。

つまり、「まずここまで学ぶこと」と「さらにここまで深めること」が整理されています。

この記事では、この「コア・カリキュラム2026」としてではなく、
頭痛領域をどう勉強していけばよいのかを示す地図として読んでみます。

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頭痛は全部勉強しようとすると迷子になる

今回紹介するのはこちらの論文です。

Hassan A, Souza MNP, Puledda F, et al.
Establishing a core curriculum in headache medicine: Best practices from the international headache society education committee.
Cephalalgia. 2026;46(9).
PMID:42731076

実際の論文:PUBMEDリンク
実際の論文:PUBMEDリンク

2020年版以来となるCore Curriculumの改訂です。

この数年だけを見ても、頭痛診療はかなり変わりました。

CGRPを標的とした治療が普及し、PACAPなど新しい治療標的の研究も進んでいます。

頭痛診療は、「頭が痛いから鎮痛薬を処方する」という診療から、

病態を理解し、適切に診断し、発作を治療し、慢性化を防ぎ、患者さんの生活への影響まで
考える診療へ変わってきています。

当然、勉強すべきことも増えます。

そこで、国際頭痛学会が採用したのが、

  • General Neurologist:一般脳神経内科医
  • Headache Specialist:頭痛専門医

という2段階の考え方です。

これを勉強法に置き換えるととてもわかりやすくなります。

最初からすべてを専門医レベルで覚えなくてよい。

まず日常診療に必要な土台をつくる。

そこから、自分の診療や興味に応じて深めていく。

頭痛領域は、この順番で学ぶのがよさそうです。

※ このCore Curriculumは国際的な教育カリキュラムです。
日本の診療ガイドラインや保険診療上の適応を示すものではなく、
日本では未承認・保険適用外となる治療も一部含まれています。

1

病名より頭痛の基本構造を理解する

頭痛を勉強するとき、最初から細かな診断基準を暗記したくなります。

もちろんICHD-3は重要です。

ただ、その前に知っておきたいのが「なぜ頭痛が起きるのか」という基本的な病態です。

片頭痛なら、三叉神経血管系、皮質拡延性脱分極(CSD)、中枢性感作と末梢性感作、CGRPなど。

ここを理解すると、症状と治療がつながります。

例えば、

なぜ片頭痛では光や音がつらいのか。

なぜアロディニアが起きるのか。

なぜCGRPを標的にすると片頭痛が改善するのか。

といった、個々の知識がバラバラではなくなります。

まずはここまで

頭痛を専門にしない医師であれば、

片頭痛、緊張型頭痛、三叉神経・自律神経性頭痛(TACs)、薬剤の使用過多による頭痛(MOH)の基本的な病態

を理解するところからで十分でしょう。

さらに深めるなら

頭痛を専門にするなら、

PACAPなど新しい神経ペプチド、遺伝学・エピジェネティクス、視覚雪症候群、外傷後頭痛、特発性頭蓋内圧亢進症などまで広げていきます。

大切なのは、分子の名前を覚えることではありません。

新しい治療が出てきたとき、その背景を理解できる程度まで病態を学ぶこと。

これが一つの目安だと思います。

2

ICHD-3を暗記するより使えるようにする

頭痛診療の共通言語はICHD-3です。

片頭痛、緊張型頭痛、TACs、MOH。そして、二次性頭痛や有痛性ニューロパチー。

頭痛を勉強するなら避けて通れません。

ただし、ICHD-3を最初から最後まで丸暗記する必要はないと思います。

まずはここまで

最初に身につけたいのは、よく遭遇する一次性頭痛を診断できること。

そして、それ以上に重要なのが、一次性頭痛らしくない症例に気づけること。

典型的な片頭痛を診断できるだけでなく、「これは何か違う」と感じられることが大切です。

そのためには、二次性頭痛を示唆するred flagsも一緒に学ぶ必要があります。

さらに深めるなら

専門性を高めるなら、非典型例、複数の頭痛が併存する症例、小児、高齢者などへ
広げていきます。

診断経験が増えると、「これは片頭痛だろう」と直感的にわかる患者さんも増えてきます。

でも、そこでICHD-3を使わなくなるわけではありません。

経験を積んだから診断基準から離れるのではなく、
経験を積んだからこそICHD-3を使いこなせる。

そんな関係だと思います。

3

二次性頭痛は、疾患名の暗記よりも検査の考え方を学ぶ

頭痛診療で怖いのは、危険な二次性頭痛を見逃すことです。

  • くも膜下出血
  • 脳静脈洞血栓症
  • 脳動脈解離
  • 髄膜炎・脳炎
  • 可逆性脳血管攣縮症候群(RCVS)・可逆性後白質脳症(PRES)
  • 巨細胞性動脈炎や中枢神経原発性血管炎(PACNS)
  • 特発性頭蓋内圧亢進症

挙げていけばきりがありません。

だからこそ、疾患名だけを覚えるより、「どんな頭痛なら何を疑い、どの検査を選ぶのか」

という形で学んだ方が実践的です。

まずはここまで

日常診療では、red flagsを拾う。

必要ならCTやMRIを選ぶ。血管病変を疑えばMRAやCTAなどを追加する。

必要に応じて、腰椎穿刺や血液検査を行う。

この基本的な流れを身につけます。

逆に、検査をしなくてもよい患者を見極めること

も大切です。

さらに深めるなら

専門外来では、すでに一次性頭痛と診断されている患者で、

いつ再検査するのか。画像上の異常をどう解釈するのか。

という問題が出てきます。

IHSのカリキュラムでは、
片頭痛患者でしばしば見られる白質高信号病変の評価も取り上げられています。

「MRIで白い点が見つかった」という患者さんは珍しくありません。

それを過剰に問題視するのでもなく、何でも片頭痛のせいにするのでもない。

画像を見つける力より、その意味を判断する力。

ここまでくると専門的な頭痛診療になってきます。

4

治療は薬の名前ではなく戦略で覚える

頭痛治療は、薬剤名を並べて覚えるとすぐに複雑になります。

そこで、急性期治療と予防治療にまず分けます。

さらに、

  • 誰に予防療法を導入するのか
  • どの薬を選ぶのか
  • いつ効果判定をするのか
  • 効かなければ次にどうするのか

という順番で考えます。

まずはここまで

日常診療では、

  • 急性期治療を適切なタイミングで使う。
  • 必要な患者には予防療法を導入する。
  • 薬剤の使用過多による頭痛(MOH)を防ぐ。

ここを確実にできることが重要です。

CGRP関連薬についても、新しい薬だから知っているだけではなく、

  • どんな患者に使うのか
  • どのくらいで効果を判断するのか
  • 従来薬とどう位置づけるのか

という形で学ぶと実臨床につながります。

さらに深めるなら

  • 治療が効かなかった患者をどうするのか。
  • 複数の予防薬が効かなかったら
  • 妊娠・授乳中なら
  • 脳血管疾患や心血管疾患を合併していたら
  • 難治例ではどうするか

「最初の一手」ではなく「次の一手」を考える。

ここが専門医レベルの学びになってきます。

国際頭痛学会のカリキュラムには、

  • 非侵襲的ニューロモデュレーション
  • 末梢神経ブロック
  • 慢性片頭痛に対するA型ボツリヌス毒素療法

なども含まれています。

ただし、国によって利用できる治療は異なります。

例えば、日本ではA型ボツリヌス毒素は慢性片頭痛に対する承認・保険適用がありません(2026年10月現在)。

したがって、この部分は日本の日常診療で必ず実践すべき項目というより、

国際頭痛学会が国際的に想定している頭痛専門医の知識・技能

として読むのがよいでしょう。

5

頭痛日数だけでなく、患者の生活を見る

頭痛診療では、「月に何日頭痛がありますか?」と聞くことはもちろん重要です。

ただ、それだけでは患者さんの困り具合はわかりません。

同じ月4日の片頭痛でも、
薬を飲めば普段通り働ける人と毎回寝込んで仕事や家事ができなくなる人では、
意味が全く違います。

国際頭痛学会のカリキュラムでは、
MIDASやHIT-6などを使った日常生活への支障度評価や
仕事・生活への影響も重視されています。

睡眠、運動、食事、カフェイン、アルコール、ストレスなども関係します。

まずはここまで

頭痛日数と薬の使用日数だけではなく、頭痛によって何ができなくなっているのかを聞く。

これだけでも診療はかなり変わります。

さらに深めるなら

プレゼンティーイズム

つまり、「仕事には来ているけれど頭痛のため十分に働けていない」という負担まで考える。

治療効果も単に頭痛日数だけではなく、患者さんの生活がどれだけ取り戻せたか
という視点で評価する。

頭痛診療を深めるほど、こうした患者報告アウトカムが重要になってきます。

6

頭痛を勉強するほど、頭痛以外も学ぶ必要がある

少し意外ですが、頭痛を専門的に診ようとすると、頭痛以外の知識がどんどん必要になります。

  • うつ病・不安症
  • 睡眠障害
  • てんかん
  • 慢性疼痛
  • 脳卒中
  • 心血管疾患
  • 肥満や代謝異常
  • 消化器疾患

片頭痛にはさまざまな併存疾患があります。

治療薬を選ぶときにも、頭痛だけを見て決めるわけにはいきません。

  • 血圧
  • 体重
  • 妊娠可能性・授乳
  • 気分障害
  • 脳心血管リスク。

患者さん全体を見る必要があります。

まずはここまで

よくある併存疾患を知り、治療薬を選ぶ際に考慮する。

さらに深めるなら

頭痛と併存疾患との双方向の関連や、治療選択への影響まで考える。

頭痛を専門にするほど、頭痛だけを診ていてはいけない。

これはコア・カリキュラムを読んでいて印象に残るポイントの一つです。

7

論文を読む力を身につける

ここは、頭痛専門医メインの話かもしれませんが、少しずつ身につけた方がよいと思っています。

頭痛領域では、新しい薬やデバイスが次々と登場しています。

そのたびに、「有効だった」「有意差があった」という情報が流れてきます。

でも、それだけでは目の前の患者さんに使えるかどうかわかりません。

  • どんな患者が研究に参加したのか。
  • 何と比較したのか。
  • 効果の大きさはどれくらいだったのか。
  • どんなアウトカムを使ったのか。
  • 実臨床でも同じ結果が出るのか。

こうした視点が必要です。

コア・カリキュラムでも、
頭痛専門医には臨床試験の基本だけでなく、
レジストリ研究やリアルワールド・エビデンスまで理解することが求められています。

まずはここまで

ガイドラインやレビューを読み、「なぜこの治療が推奨されているのか」を少し意識する。

さらに深めるなら

RCTを自分で読み、研究デザインやアウトカム、絶対効果まで評価する。

さらにレジストリ研究やリアルワールド・エビデンスとRCTとの違いを考える。

ここまでできると、新しい治療が登場しても情報に振り回されにくくなります。

頭痛の勉強は、縦に深く、横に広く

コア・カリキュラムを読んでみると、頭痛の学び方は大きく2段階に整理できそうです。

最初は、よくある頭痛を診断し、危険な頭痛を除外し、基本的な治療ができる。

ここを脳神経内科医として誰もが目指すべき。

その後は、

  • 非典型例
  • 難治例
  • 特殊な患者集団
  • 画像の正確な解釈
  • 併存疾患を配慮
  • 新しい治療
  • 臨床研究

へと少しずつ広げていく。

つまり、まずは土台をつくり、必要な領域を縦に深く掘っていく。

と同時に、頭痛だけでなく周辺領域へ横に広げていく。

これが頭痛領域の勉強法としてかなり合理的だと思います。

私なら、この順番で勉強する

これから頭痛を勉強するなら、私ならまず

① ICHD-3で代表的な一次性頭痛を診断できるようにする

ところから始めます。

同時に、

② 二次性頭痛のred flagsと検査の考え方

を身につける。

その次に、

③ 片頭痛を中心に急性期治療と予防療法を整理する。

ここまでで日常診療の土台はかなりできます。

その後、

④ CGRPやPACAPなど病態を深める

⑤ 難治例や特殊集団の治療を学ぶ

⑥ 併存疾患や患者報告アウトカムまで広げる

⑦ 原著論文を読めるようにする

という順番でよいのではないでしょうか。

最初からすべてを勉強する必要はありません。

専門医を目指す人にも、専門にしない人にも使える地図

今回のコア・カリキュラムは、頭痛専門医だけのための文書ではありません。

頭痛を専門にしない脳神経内科医なら、「自分はどこまで知っておけばよいか」
を確認できます。

専門医を目指している人なら、「この先どこまで勉強するのか」を見ることができます。

すでに専門医であれば、「自分の弱い領域はどこか」を確認できます。

私自身も頭痛専門医を取得しましたが、このコア・カリキュラムを読んでみると、

自分がこれから深めるべき領域を確認する地図という印象を持ちました。

頭痛を勉強しているけれど、「何をどこまでやればいいかわからない」と感じている人は、
一度このカリキュラムを眺めてみるとよいと思います。

全部を覚えようとしなくて大丈夫です。

まず、自分に必要なところから。

そして少しずつ深く。

頭痛領域は、そのくらいのペースで勉強するのがちょうどよいのではないでしょうか。

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