トリプタンはいつ飲む?発作から1時間以内で効き目が安定する(TEMPO study)
はじめに
外来で片頭痛の患者さんから「最近、トリプタンの効きが悪くなった」「もっと強い薬に変えてほしい」と相談されることはありませんか?
薬剤変更を検討するその前に、必ず確認すべきなのが、内服のタイミングです。
実は、同じ薬であってもいつ飲むかだけで効果に天と地ほどの差が出ることがあります。
今回は、実臨床に近い環境でトリプタンの早期内服の有用性を検証した研究であるTEMPO studyを紐解き、なぜ内服を我慢してはいけないのかを、疫学的データと病態生理(中枢性感作)の両面から解説します。
今回のClinical Question (PICO)
まず、TEMPO studyの研究デザインをPICOで整理します。
単発の効果ではなく、効果の一貫性を見ている点がこの研究のポイントです。
- P (Patient): 成人の発作性片頭痛患者
- I (Intervention): 早期内服(頭痛発現から1時間未満での内服)
- C (Comparison): 遅延内服(頭痛発現から1時間以上経過してからの内服)
- O (Outcome): 3回の発作中、少なくとも2回で2時間後のPain-free(疼痛消失)を達成した割合
TEMPO studyの結果:
早期内服で効果の安定感が変わる
TEMPO studyはフランスで行われた前向き多施設二相研究です。
この研究は2つのフェーズで構成されており、それぞれ興味深いデータを示しています。
Phase 1:早期内服群 vs 遅延内服群(群間比較)
まず、患者さんが普段通りのタイミングで3回の発作を治療した結果を比較しました。
主要評価項目である3回中2回以上で2時間後Pain-freeを達成した割合は以下の通りです。
- 早期内服群 (1時間未満): 52.8% (38例 / 72例)
- 遅延内服群 (1時間以上): 30.2% (19例 / 63例)
1時間以内に内服するだけで、一貫して痛みが消失する確率が20ポイント以上も高いという結果でした。
Phase 2:行動変容による効果改善(自己対照比較)
この研究のユニークな部分はここからです。
Phase 1で内服タイミングが遅かった、あるいは一定しなかった患者群のうち 42名 に対し、医師が「次は頭痛が始まったら1時間以内に飲んでください」と指導を行い、再度データをとりました。
その結果、同一の42名であるにもかかわらず、Pain-freeの一貫性は以下のように改善しました。
- 指導前 : 38.1% (16例 / 42例)
- 指導後 : 52.4% (22例 / 42例)
薬剤の種類や用量を変えずとも、タイミングの最適化という行動変容だけで、治療効果を有意に引き上げられることが示唆されています。
なぜ早めの内服が良いのか?(病態生理学的視点)
なぜ時間が経つとトリプタンが効きにくくなるのでしょうか。
これには中枢性感作(Central Sensitization)とアロディニア(異痛症)が関与しています。
- 発作初期(末梢性感作): 炎症は三叉神経血管系に限局しています。この段階ではトリプタンが血管収縮作用等を十分に発揮できます。
- 発作進行(中枢性感作): 痛みの入力が持続すると、三叉神経脊髄路核などの脳幹レベルで神経が過敏になります(中枢性感作)。
- アロディニアの出現: 感作が進むと、眼鏡をかける、髪を結ぶといった普段は痛くない刺激で痛みを感じるアロディニアが出現します。
アロディニアが出現した(中枢性感作が成立した)段階では、トリプタンの効果が減弱しやすいことが多くの研究で報告されています。
したがって、中枢性感作が完成する前に内服することが、薬理学的にも理にかなっているのです。
研究デザインの批判的吟味
本研究を臨床適用する際、専門医として留意すべき点も挙げておきます。
- 交絡の可能性: 本研究はRCT(ランダム化比較試験)ではありません。早く飲んだ群は、そもそも発作が軽かったから早く飲む余裕があった(そして治りやすかった)という適応による交絡(Confounding by indication)が否定できません。
- 自己対照の意義: しかし、Phase 2において同じ患者がタイミングを変えるだけで改善したというデータは、個人の重症度や代謝などの背景因子の影響を相殺しており、早期内服と治療効果の因果関係を強く支持する材料となります。
臨床への応用:MOHを防ぎつつ早期内服を促す
早めに飲んでくださいと指導すると、懸念されるのが薬剤の使用過多による頭痛(MOH: Medication Overuse Headache)です。
ICHD-3(国際頭痛分類第3版)において、トリプタンによるMOHのリスク基準は以下のように定義されています。
トリプタン乱用頭痛の基準
- トリプタンの月10日以上の使用
- 頭痛が月15日以上存在する
- 上記が3ヶ月を超えて続く場合
したがって、患者さんには以下のように説明することが重要です。
明日から使える患者説明用スクリプト
「トリプタンは『火事の初期消火』です。大火事(激痛)になってからでは水が届きません。『あ、来たな』と思ったら1時間以内にすぐ飲んでください。首振りやお辞儀で頭痛が増強するなら片頭痛であることが多いですのでトリプタンの出番です。
ただし、月に10回以上出動する(薬を飲む)日が続くと、逆に薬のせいで頭痛がこじれることがあります。もし月に5-10回も片頭痛が起こるなら、予防薬を調整しますので必ず教えてくださいね。」
よくある質問(FAQ)
Q1. 前兆(閃輝暗点など)や予兆(肩こりなど)の段階で飲んでもいいですか?
A1. 基本は頭痛が始まってからの内服です。
日本頭痛学会のガイドラインなどでは、トリプタンは頭痛が軽度のうち/発症後およそ1時間以内が最も有効で、前兆期や予兆期での使用は“有害ではないが無効となり得る”と整理されています。
血管が拡張して炎症が起きるプロセスに作用するため、焦って前兆・予兆で飲む必要はなく、頭痛が始まってから早期に飲むのが基本戦略です。
Q2. 朝起きたらすでに激痛でした(起床時頭痛)。どうすればいいですか?
A2. トリプタン単剤で不十分な場合、併用療法や投与経路の変更を検討します。
睡眠中に発作が進行してしまった場合、すでに中枢性感作が進んでいるだけでなく、片頭痛に伴う胃排出遅延で内服薬の吸収が落ちている可能性があります。
実臨床の選択肢としては以下を検討します。
- 制吐薬の併用: メトクロプラミドやドンペリドンなどを併用し、胃の動きを助けて吸収を良くする。
- NSAIDsの併用: ナプロキセンなどの鎮痛薬とトリプタンを同時に飲む(スマトリプタン+ナプロキセンの合剤効果はエビデンスがあります)。
- 点鼻薬・注射薬: 飲み薬が効かないほど進行している場合は、胃を通さない点鼻薬や、自己注射(皮下注)への切り替えも有効な選択肢です。
- ジタン系・ゲパントの使用:ラスミジタンなどのジタン系薬剤やリメゲパントを始めとするゲパント製剤は時間が経過しても有効性が示されているため、有効な選択肢の一つです。
Take Home Message
- 早期内服は正義: TEMPO studyにおいて、発作発現から1時間以内の内服は、2時間後のPain-free率を一貫して向上させました(52.8% vs 30.2%)。
- 行動変容の効果: 遅延内服の患者に早期内服を指導するだけで、薬剤を変えずとも効果が改善する可能性があります。
- 機序の理解: 内服遅延による効果減弱は、中枢性感作とアロディニアの出現が関与していると考えられます。
- MOHへの配慮: 早期内服と月10日未満の使用制限は必ずセットで指導しましょう。
参考文献
- Lantéri-Minet M, Mick G, Allaf B. Early dosing and efficacy of triptans in acute migraine treatment: the TEMPO study. Cephalalgia. 2012;32(3):226-235. doi:10.1177/0333102411433042
PUBMED: https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/22234883/
