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【CGRP関連抗体のやめどき】MMDが50%減らなくても続けるべき患者は?|Neurolog|脳の羅針盤
頭痛

【CGRP関連抗体のやめどき】MMDが50%減らなくても続けるべき患者は?

Neurolog管理人
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はじめに

抗CGRP関連抗体薬(CGRP-mAbs)は、従来の予防薬でコントロールできなかった患者さんにとって最後の砦のような存在になりつつあります。

一方で、日本では高額な薬剤費の観点からも漫然と投与することの回避が強く求められ、いつまで続けるか、non-responderはどこで見切りをつけるか、という判断は、専門医であっても悩ましいところです。

外来でこんな患者さんはいませんか?

「先生、頭痛の回数は前とそんなに変わらない気もするんですけど、1回1回のつらさはだいぶマシで、寝込むことが少なくなったんです。できればこの注射、続けたいです。」

ガイドラインや臨床試験では、月間片頭痛日数(Monthly Migraine Days: MMD)が50%以上減少した症例をレスポンダーと定義するのが一般的です。

しかし、MMDが50%減っていなければ、本当に無効と切り捨ててよいのでしょうか。

この問いに真正面から向き合ったのが、Headache 誌に2025年に掲載された Muñoz‐Vendrell らの Real-world study です。

Clinical Question(CQ)

  • 抗CGRP抗体でMMDが50%未満しか減っていない患者でも、痛みの強さや障害度、急性期薬使用、生活の質などの面で臨床的メリットを享受しているFalse Non-responderはどれくらい存在し、そのような患者は継続してよいのか?

論文の概要

どんなデザインか?

本研究は、スペイン・バルセロナ近郊の二つの頭痛ユニット(Hospital Universitari de Bellvitge と Hospital de Viladecans)の前向きレジストリを用いた、後ろ向き観察コホート研究です。

2019年12月から2024年9月までに抗CGRP関連抗体薬(エレヌマブ、ガルカネズマブ、フレマネズマブのいずれか)を開始した片頭痛患者を対象としています。スペインの保険償還条件により、全例がMMD 8日以上かつ少なくとも3クラス以上の予防薬に不応(慢性片頭痛ではボツリヌス毒素も含む)という、いわゆる難治例が対象です。

PICOの整理

項目内容
P (Patient)2019年12月〜2024年9月に、3次頭痛ユニットで抗CGRP抗体を開始し、6か月以上フォローされた片頭痛患者 415例
I (Intervention)False Non-responder 群
6か月時点で、施設の「レスポンダー」基準(MMD 50%以上減少、または MMD 30%以上減少+HIT-6 1点以上改善)を満たさないにもかかわらず、臨床判断で治療継続となっていた患者 106例
C (Comparison)True Non-responder 群
抗CGRP抗体を開始したものの、最初の6か月以内に「効果不十分」を理由に中止された76例。
O (Outcome)頻度(MMD・MHD)、障害度・QoL(MIDAS, HIT-6, MSQ)、急性期薬使用量(AMDM, MOHの有無)、痛みの強度、患者全般印象(PGIC)など。

False Non-responder の正確な定義

この論文でいう False Non-responder とは、以下のように定義されています。

6か月時点で、償還基準(MMD 50%減など)を満たしていない = 形式上は Non-responder だが、臨床的判断として治療継続された患者

重要なのは、PGIC(患者の主観的評価)が高いこと自体が定義ではなく、数字(MMD)は基準未達だが、継続されているという事実に基づいている点です。

しかし、結果としてこの False Non-responder 群の 54.5% が PGIC ≥5(”moderate improvement” 以上)を示しており、患者の主観的実感としても、半数以上は『かなり良くなった』以上と感じている、ということが分かりました。

主な結果

415例のうち、6か月評価に到達したのは353例でした。

  • 203例:償還基準を満たすレスポンダー
  • 106例:基準を満たさないが継続された False Non-responder
  • 76例:6か月以内に中止された True Non-responder

6か月時点の False Non-responder(n=106)の実態

False Non-responder 群では、6か月時点で 91.5%(95%CI 84.5–96.0) が、いずれか1つ以上のアウトカムで改善あり、と判定されました。

具体的には、以下のような多角的な改善が見られています。

  • MIDAS 改善(4.5点以上の減少): 60.2%
  • PGIC ≥5(中等度以上の改善): 54.5%
  • HIT-6 2.5点以上改善: 44.1%
  • 薬物乱用頭痛(MOH)の解消: 46.4%
  • 慢性片頭痛(CM)から発作性片頭痛(EM)への移行: 41.2%
  • 「重度」の頭痛日が50%以上減少: 29.3%
  • AMDM(急性期薬使用日)の50%以上減少: 12.3%

さらに注目すべきは、12か月まで継続できた False Non-responder 82例のうち、18.3%は最終的に償還基準を満たす “Late responder” へと移行 していました。

つまり、6か月時点で形式上 Non-responder でも、9割以上が何らかの臨床的な恩恵を得ており、そのうち約2割は1年追えば『Responder』になる、ということが示されたのです。

True Non-responder との比較

一方、早期中止された True Non-responder 群では、何らかの改善が見られたのは 65.8% に留まり、MOH解消率(7.1% vs 46.4%)や PGIC ≥5(9.7% vs 54.5%)も圧倒的に低い結果でした。

ベースラインでも True Non-responder 群は重症度が高く、著者らはベースラインで極めて重症かつ早期改善が乏しい患者こそが、真の Non-responder(早期中止妥当)である、としています。

考察:MMDだけでは“効果”を捉えきれない

この研究が示しているのは、単なる数字遊びではありません。

MMD偏重の効果判定が、治療継続すべき患者を取りこぼしかねないという現実です。

国際頭痛学会(IHS)も、片頭痛予防の目標を頻度の減少だけでなく、疾患負担全体(QOL・障害度・急性期薬使用・治療満足度)を含めて評価すべきと提言しています。

  • MOH の解消
  • CM → EM への移行
  • 重度日数の減少
  • MIDAS・HIT-6 の有意な改善
  • PGIC で患者本人が「かなり良くなった」と感じている

これらは患者にとって日数以上に意味のある改善であり、これを無視して一律に中止判断するのは不適切になり得ます。

Muñoz‐Vendrell らのデータは、この臨床的な肌感覚を数字で裏打ちしたと言えます。

実臨床の外来でどう活かすか

1. 3か月/6か月で機械的に切らない

6か月時点でMMD 50%未満だから即中止という運用は再考の余地があります。

中止を決める前に、必ず MIDAS/HIT-6、MOHの有無、重度日数、PGIC、など を確認し、False Non-responder(継続価値あり)なのか、True Non-responder(中止妥当)なのか、を見極めましょう。

2. 問診内容を具体的にする

MMD以外の変化を拾い上げるためのキラー・クエスチョンです。

  • 「重い日(寝込むレベルの日)の回数は、治療前と比べて減りましたか?」
  • 「連日頭痛だった時期と比べて、頭痛のない日や軽い日は増えていますか?」
  • 「鎮痛薬やトリプタンを飲む日は、以前より何日くらい減っていますか?」
  • 「仕事や家事を休む頻度はどう変わりましたか?(MIDAS的視点)」
  • 「全体として、治療前と比べてどのくらい良くなったと感じますか?(PGIC的視点)」

3. カルテ記載と保険診療上の整理

継続の妥当性をカルテに残すことは、査定対策としても重要です。
以下のような記載が理想的です。

「MMDは治療前16日→14日と減少は軽度だが、慢性片頭痛から反復性片頭痛へ移行し、連日性の頭痛は消失。」

「MOHを合併していたが、6か月時点で薬剤の使用過多の定義を外れ、急性期治療薬使用日数は約半減。」

「MIDAS 80→40 と障害度は改善。PGICで中等度の改善を認め、本人も就労への支障減少により継続を強く希望。」

4. どこまで粘るか:スイッチか継続か

完全な True Non-responder(頻度も障害度も改善せず、PGICも低い)なら、スイッチや別戦略を検討すべきです。

一方で、False Non-responderに近い症例では、少なくとも12か月までは同一薬剤での継続を検討し、複合的なアウトカムを見ながら判断するというスタンスが、本研究からは妥当と考えられます。

Take Home Message

  • MMD 50%減だけがすべてではない
    抗CGRP抗体のNon-responderとされる患者の中には、頻度以外の指標で恩恵を受けている False Non-responder が多数存在する(6か月時点で9割以上が何らかの改善あり)。
  • “Late responder” の存在
    False Non-responder の約2割(18.3%)は、12か月追うことで最終的にレスポンダー基準を満たす。
  • 多面的な評価の実践
    効果判定は MMD だけでなく、MOH解消、CM→EM移行、重度日数の減少、MIDAS/HIT-6、PGIC といった複合アウトカムで行うべきである。

参考文献

  1. Muñoz-Vendrell A, Campoy-Díaz S, Díaz-Corta P, et al. False nonresponders to anti-calcitonin gene-related peptide monoclonal antibodies: A real-world analysis beyond migraine frequency reduction. Headache.
    PUBMED: https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/41316702/
※本ブログは、私個人の責任で執筆されており、所属する組織の見解を代表するものではありません。

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神経内科専門医・脳卒中専門医
急性期市中病院で勤務する脳神経内科医です。 得意分野は脳卒中・頭痛です。神経内科専門医・脳卒中専門医で、頭痛専門医を目指して研鑽中です。mJOHNSNOW Fellow(2期)。 医学論文をわかりやすく解説し、明日から使える実践知を発信します。個別の医療相談にはお答えできかねます。本サイトの投稿は個人的見解です。
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