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頭痛専門医は「片頭痛持ち」が多い説は本当か?─有病率データと選択バイアスから考える─|Neurolog|脳の羅針盤
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頭痛専門医は「片頭痛持ち」が多い説は本当か?─有病率データと選択バイアスから考える─

Neurolog管理人
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はじめに

医局や学会の懇親会で、こんな会話を耳にしたことはありませんか?

「頭痛専門医の先生って、ご自身も頭痛持ちの方が多いですよね?」

これは単なる「あるある話」や都市伝説なのでしょうか。それとも、統計的に裏付けられた事実なのでしょうか。

実際に、頭痛専門医や神経内科医の片頭痛有病率は、一般人口より有意に高いことを示唆するデータが世界中で報告されています。

今回は、脳神経内科医・頭痛専門医の視点から、この興味深いテーマを臨床研究(Clinical Research)と疫学(Epidemiology)の枠組みで検証します。

単に「多い・少ない」の話で終わらせず、なぜそのような結果になるのかという「研究デザインとバイアス」についても深掘りしますので、EBM(Evidence-Based Medicine)のトレーニングとしてもお役立てください。

臨床的疑問(Clinical Question)とPICO

まず、この疑問を検証するために、ドイツで行われた代表的な研究を紹介します。

複数の専門科における一次性頭痛の有病率を比較した横断研究です。

紹介する論文

Evers S, Brockmann N, Summ O, Husstedt IW, Frese A. Primary headache and migraine in headache specialists – does personal history of doctors matter?. Cephalalgia. 2020;40(1):96-106. doi:10.1177/0333102419873671

この研究のPICOは以下の通り整理できます。

P (Patient/Population): ドイツの頭痛専門医・一般神経内科医・疼痛専門医・総合診療医(GP)

I/E (Intervention/Exposure): 頭痛専門医であること(および各専門科への所属)

C (Comparison): 一般人口(年齢・性別マッチング)、および他診療科医

O (Outcome): 片頭痛(Migraine)などの一次性頭痛の生涯有病率(Lifetime Prevalence)

頭痛専門医の片頭痛有病率は一般人口よりどれくらい高いのか?

この研究の結果は非常に示唆に富むものでした。

欧米における一般成人の片頭痛有病率は約12%前後(男性5〜9%、女性12〜25%)と言われていますが、医師(特に神経内科領域)の生涯有病率は以下の通りでした。

  • 頭痛専門医(Headache Specialists):53.0%
  • 一般脳神経内科医(General Neurologists):43.0%
  • 疼痛専門医(Pain Specialists):21.7%
  • 一般人口(General Population):16.8%

なんと、頭痛専門医の半数以上(53%)が片頭痛持ちという結果でした。

一般人口と比較して高いのはもちろん、同じ痛み診療を扱う「疼痛専門医(麻酔科背景が多い)」と比較しても2倍以上の開きがあります。

米国や韓国のデータでも同様の傾向

この傾向はドイツに限りません。

  • 米国 (Evans RW, et al. 2003): 神経内科医における片頭痛の生涯有病率は、男性46.6%、女性62.8%と報告されており、やはり一般人口より高率です。
  • 韓国 (Kim BK, et al. 2022): 神経内科医の片頭痛生涯有病率は49.8%と報告され、同国の一般人口データ(1年有病率 約6.1%)と比較して明らかに高い頻度を示しています。

日本の状況は?

日本における一般人口の片頭痛有病率(1年有病率)は約8.4%(Sakai F, et al. 1997)とされています。

専門医に特化した大規模データはありませんが、医療従事者全体の頭痛負担が大きいことを示す研究は存在します。

例えば、日本の地方中核病院における調査(Iwasaki M, et al. 2025)では、職員の79%が頭痛を有しており、そのうち約21%が片頭痛に該当すると推定されました。日本の医療現場においても、一般人口より高い有病率である可能性が示唆されます。

疫学的視点:なぜ頭痛専門医に片頭痛が多く見えるのか?

ここからが本記事の核心である「因果推論とバイアス」の話です。

「頭痛診療を専門にすると、ストレスで頭痛になる(因果関係)」のでしょうか?

それとも、「頭痛持ちだから、専門医になった(逆の因果)」のでしょうか?

紹介した研究はいずれも横断研究(Cross-sectional study)であるため、因果の方向を断定することはできません。しかし、疫学的には以下の2つのバイアスが強く関与していると解釈するのが妥当です。

① 選択バイアス(Selection Bias):自己選択

最も有力な説明がこれです。

「自身の頭痛経験が、専門科の選択に影響を与えた」という形です。

自分自身が片頭痛の辛さを知っているからこそ、「この病気を治したい」「患者さんの気持ちがわかる医者になりたい」と考え、サブスペシャリティとして頭痛領域を選択する医師が多いと考えられます。

これは「自己選択(Self-selection)」の結果として、特定の集団に有病者が集まった状態です。

② 情報バイアス(Information Bias):想起・診断バイアス

もう一つの要因は、専門医ゆえの「診断能力の高さ」です。

一般の方は、軽い片頭痛を「ただの肩こり」や「眼精疲労」と片付けてしまうことがあります(偽陰性)。

しかし、脳神経内科医や頭痛専門医は、国際頭痛分類(ICHD-3)の診断基準を熟知しています。「あ、今の閃輝暗点だ」「これは前兆のない片頭痛だ」と、自身の症状を正確に診断できます。

つまり、「実際に頭痛が多い(選択バイアス)」ことに加えて、「見落としが少ない(感度が高い)」ために、見かけ上の有病率がさらに跳ね上がっている可能性があります。

この結果をどう考えるか

疫学的な背景はどうあれ、「頭痛専門医には頭痛持ちが多い」というのは事実と言って差し支えないでしょう。

これを臨床現場でどう活かすか。

私たち専門医にとって、自身の頭痛経験は「弱点」ではなく、強力な「臨床的武器」になります。

  • 発作中の辛さ(光過敏や吐き気など)への具体的で深い共感
  • 日常生活への支障(QOL低下)に対する理解
  • 予兆期や回復期の微妙な感覚の共有

これらは教科書だけでは学べないものです。「先生も頭痛持ちなんですか?」という患者さんの一言から、ラポール(信頼関係)が一気に深まる瞬間を、多くの先生が経験されているはずです。ただし、ご自身が使用していて有効な治療を推奨しやすい、患者さんも希望しやすいなどといったバイアスには留意は必要です。

Take Home Message

  1. 頭痛専門医の片頭痛有病率は50%前後という報告もあり、一般人口より明らかに高い。
  2. この現象は「選択バイアス(自身の経験がキャリア選択に影響)」と「情報バイアス(診断能力の高さ)」で説明できる。
  3. 自身の痛みを知る医師は「共感力」という強力な武器を持っている。

研修医の先生方で、「自分は片頭痛持ちだから激務の科は無理かも…」と悩んでいる方がいれば、むしろ「その痛みや辛さを知っているからこそ、将来の名医候補だ」と伝えたいと思います。

参考文献

  1. Evers S, Brockmann N, Summ O, Husstedt IW, Frese A. Primary headache and migraine in headache specialists – does personal history of doctors matter?. Cephalalgia. 2020;40(1):96-106. doi:10.1177/0333102419873671
    PUBMED: https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/31480900/
  2. Evans RW, Lipton RB, Silberstein SD. The prevalence of migraine in neurologists. Neurology. 2003;61(9):1271-1272. doi:10.1212/01.wnl.0000090628.46508.d4
    PUBMED: https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/14610136/
  3. Kim BK, Chu MK, Yu SJ, et al. Prevalence Rates of Primary Headache Disorders and Evaluation and Treatment Patterns Among Korean Neurologists. J Clin Neurol. 2022;18(5):571-580. doi:10.3988/jcn.2022.18.5.571
    PUBMED: https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/36062775/
  4. Sakai F, Igarashi H. Prevalence of migraine in Japan: a nationwide survey. Cephalalgia. 1997 Feb;17(1):15-22. doi: 10.1046/j.1468-2982.1997.1701015.x. PMID: 9051330.
    PUBMED: http://47.251.13.51:8081/9051330/
  5. 岩﨑めぐみら. 佐賀県北部医療圏中核病院での医療従事者における 頭痛の実態調査. 日本頭痛学会誌 52:102-106,2025.
    J-STAGE: https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjho/52/1/52_102/_article/-char/ja
※本ブログは、私個人の責任で執筆されており、所属する組織の見解を代表するものではありません。

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神経内科専門医・脳卒中専門医
急性期市中病院で勤務する脳神経内科医です。 得意分野は脳卒中・頭痛です。神経内科専門医・脳卒中専門医で、頭痛専門医を目指して研鑽中です。mJOHNSNOW Fellow(2期)。 医学論文をわかりやすく解説し、明日から使える実践知を発信します。個別の医療相談にはお答えできかねます。本サイトの投稿は個人的見解です。
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