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意識清明な高齢者の全身の震えは本当にてんかん? 誤診を避けるTMA症候群の知識

Neurolog管理人

救急外来や病棟の当直中、こんなヒヤリとする場面に遭遇したことはないでしょうか。

高齢の入院患者さんが、急に全身をビクッ、ビクッと激しく震わせ始めた。

看護師から痙攣です!と呼ばれて駆けつけると、患者さんは全身をガクガクさせているものの、先生、なんだか体が勝手に動いて止まらないんです……と、こちらと目が合い、会話が成立している。

えっ、意識がある? てんかん重積(Focal aware seizure)? それともシバリング? まさか心因性?

この状況で鑑別の引き出しに入っていると非常に強力なのが、今回ご紹介するTMA症候群(TMA: Transient myoclonic state with asterixis)です。

1992年に日本から発信された概念ですが、2025年に最新のSystematic Reviewが報告されました。今回はこの最新知見を紐解きながら、Seizure mimicとしてのTMAの正体に迫ります。

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今回紹介する論文

まずは、この疾患の全体像を把握するために、最新のレビュー論文を確認します。

Rissardo JP, et al. Transient myoclonic state or transient myoclonic state with asterixis: A systematic review. Med Int (Lond). 2025.

TMA症候群とは何か?

TMA症候群は、Transient Myoclonic state with Asterixis(アステリキシスを伴う一過性ミオクローヌス状態)の略称です。

1992年にHashimotoら、あるいは松尾ら日本の神経内科医によって提唱された概念であり、実は世界的に見ても日本からの報告が圧倒的に多いという特徴があります(今回のレビューでも報告の大部分が日本からでした)。

一言でいうと、「高齢者に好発する、意識障害を伴わない全身の不随意運動」です。

臨床的な3つの特徴

  1. 意識は清明である
    これが最大の特徴であり、最大のトラップです。全身が痙攣のように動いていても、患者さんは自分の状況を説明できます。
  2. アステリキシス(Asterixis)とミオクローヌス
    アステリキシスとは、羽ばたき振戦(negative myoclonus:陰性ミオクローヌス)のことです。
    姿勢を保持しようとする筋緊張が一瞬消失することでカクンとなる動きですが、これが全身に出現し、かつ陽性ミオクローヌス(ピクッとする動き)と混在することで、あたかも全身痙攣のように見えます。
  3. 高齢者・慢性疾患・軽微な全身侵襲
    慢性腎臓病や心疾患を持つ高齢者が、軽度の感染症(尿路感染など)、脱水、薬剤調整などをきっかけに発症します。

診断と治療のパール:
Seizure mimic としての重要性

この疾患を知らないと、見た目の派手さからてんかん重積を疑って抗てんかん薬を大量投与し、過鎮静や挿管といった過剰な侵襲につながる恐れがあります。

1. 診断の鍵は、病歴と脳波

  • 発症様式: 数時間かけて症状が完成する亜急性の経過をとることが多いです。
  • 脳波所見 : 臨床的には痙攣に見えますが、てんかん性放電(SpikeやSharp wave)は認めません。 基礎律動の徐波化(slow wave)や三相波などを認めるのみです。
  • シバリングとの鑑別: シバリングは細かく規則的な震えですが、TMAはアステリキシス(姿勢保持の脱失)を伴うため、よりカクン、ビクンとした不規則で大きな動きに見えます。

2. 治療と予後

  • ベンゾジアゼピンが著効: 多くの症例(レビューでは約2/3)でベンゾジアゼピン(ジアゼパム、クロナゼパム等)が使用され、症状が速やかに消失しています。
  • 予後良好: 基本的には良性疾患であり、数日で自然軽快することもあります。後遺症は残しませんが、再発のリスクはあるため注意が必要です。

【Expert’s Eye】
研究デザインから見る「解釈の注意点」

ここで少し専門的な視点(疫学・研究デザイン)から、今回の2025年の論文を批判的吟味(Critical Appraisal)してみましょう。

今回の研究はSystematic Reviewですが、統合されたデータの元は症例報告 (Case Report/Series)です。ここにはいくつかのバイアスが潜んでいます。

① 出版バイアス (Publication Bias)

TMA症候群のような、”診断がつくと面白い””劇的に治った”症例は論文になりやすい一方、診断がつかずに終わった軽症例や、ベンゾジアゼピンが無効だった非典型例は報告されにくい傾向があります。したがって、文献上の”ベンゾジアゼピン著効””予後良好”というデータは、現実よりも良く見積もられている可能性があります。

② 因果推論の限界 (Causal Inference)

薬剤XがTMAを誘発した、という記述が散見されますが、対照群(Control)がないため、統計学的な因果関係の証明は困難です。

薬剤が直接の原因なのか、それとも薬剤変更を必要とした原疾患の悪化(感染や脱水)が原因なのか、交絡(Confounding)している可能性が高いです。

臨床医としては、特定の薬剤のみを犯人扱いするのではなく、高齢・フレイルという素地(Effect modifier)に全身的なストレスが加わって閾値を超えた状態、と解釈するのが妥当でしょう。

③ なぜ日本からの報告が多いのか?(Information Bias)

本疾患の報告が日本に集中しているのは、遺伝的要因だけでなく、「TMA症候群」という診断ラベルが日本の医師間で共有されているから(知っているから診断できる)という情報バイアスの側面も否定できません。

Take Home Message

  1. 「意識清明」なのに「全身が痙攣している」高齢者を見たら、TMA症候群を想起せよ。
  2. 脳波でてんかん波がないことを確認できれば、過剰な抗てんかん薬の連打や気管挿管を回避できる。
  3. ベンゾジアゼピン系薬剤が著効し予後は良好だが、背景にある「全身の不調(脱水、感染、代謝異常)」の補正を忘れないこと。

救急外来や病棟で「痙攣が止まりません!」という高齢者が搬送されてきたとき、もし患者さんが「揺れて困るんです」と話しかけてきたら、ぜひこの疾患を思い出してください。それだけで、患者さんも医療者も不必要な侵襲から守ることができます。

参考文献

  1. Rissardo JP, Vora NM, Seth N, Shariff S, Fornari Caprara AL. Transient myoclonic state or transient myoclonic state with asterixis: A systematic review. Med Int (Lond). 2025;5(3):29. Published 2025 Mar 19. doi:10.3892/mi.2025.228
    PUBMED: https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/40170740/
  2. Hashimoto S, Kawamura J, Yamamoto T, et al. Transient myoclonic state with asterixis in elderly patients: a new syndrome?. J Neurol Sci. 1992;109(2):132-139. doi:10.1016/0022-510x(92)90159-i
    PUBMED: https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/1634895/
※本ブログは、私個人の責任で執筆されており、所属する組織の見解を代表するものではありません。

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神経内科専門医・脳卒中専門医
脳卒中と頭痛が得意な地方急性期病院の中堅脳神経内科医🧠|神経内科専門医・脳卒中専門医|自身が片頭痛持ち⚡→"頭痛難民ゼロ"を目標に頭痛専門医へ航海中⚓️|論文の批判的吟味🔍→現場の武器へ翻訳→神経が苦手な研修医・非専門医の臨床力も底上げ|mJOHNSNOW fellow| ※🆖医療相談は不可、⚠️ポストは個人的見解
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