片頭痛は頭が痛い時だけの病気ではない|Lancet総説から学ぶ4つのポイントを頭痛専門医が解説
片頭痛の患者さんに、「頭痛は月に何日ありますか?」と聞いて、
それだけで病気の重さを判断していないでしょうか。
もちろん頭痛日数は大切です。
でも、片頭痛は頭が痛い時だけに支障をきたす病気ではありません。
2026年10月、The Lancetに片頭痛の総説が掲載されました。
この総説では、片頭痛を繰り返す頭痛ではなく、複数の感覚神経系や神経血管系が関わる
慢性の神経疾患として整理されています。
世界では、約11億6000万人が片頭痛を持ち、ある1日だけを切り取っても5億5000万人以上が発作を経験していると推計されています。
普段の片頭痛診療で何を少し変えればよいのか。重要なのは次の4点です。
① 頭痛日数だけでは、片頭痛の負担を捉えきれない
② 誘因だと思っているものが、実は発作の始まりかもしれない
③ 片頭痛は、血管が広がる病気だけでは説明できない
④ 頭痛が50%減ったで治療を終わりにしない
診断から急性期治療、予防療法まで、具体的な診療の進め方を知りたい方は、
以下の記事にまとめています。

今回は、その一歩手前であるそもそも片頭痛をどんな病気として見るのかを考えます。
① 頭痛日数だけでは、片頭痛の負担を捉えきれない
片頭痛発作は、頭痛が始まった瞬間に突然スタートするわけではありません。
頭痛の数時間〜数日前から、
・疲れやすい
・あくびが出る
・集中しにくい
・気分が変わる
・食欲が変化する
といった予兆症状が現れることがあります。
一部の患者さんでは視覚症状などの前兆があり、その後に頭痛が起こります。
そして頭痛が治まった後にも、疲労感や集中力低下などが残ることがあります。
片頭痛発作をこうした時間的に異なる複数の段階からなる現象として整理しています。
つまり、予兆症状 → 前兆(ある場合)→ 頭痛 → 頭痛後の回復
までが片頭痛です。
たとえば、「片頭痛は月4日です」という患者さん。
数字だけなら、それほど多くないようにも見えます。
でも、頭痛の前日はだるくて仕事が進まず、翌日も頭がぼんやりしている。
発作のない日にも、「明日また頭痛になったら困る」と旅行や予定を控えているかもしれません。
そうなると、この患者さんが片頭痛の影響を受けているのは、月4日ではありません。
頭痛日数と片頭痛によって生活を奪われている日数は同じではない。
ここは、普段の外来でも意識しておきたいところです。
② 誘因だと思っているものが、実は発作の始まりかもしれない
「チョコレートを食べると片頭痛になります」
片頭痛外来では、時々聞く話です。
では本当に、
チョコレート
↓
片頭痛
なのでしょうか。
片頭痛では頭痛が起きる前から、食欲や嗜好が変化することがあります。
だとすると、
片頭痛発作がすでに始まっている
↓
甘いものが欲しくなる
↓
チョコレートを食べる
↓
その後に頭痛が起こる
という順番かもしれません。
つまり、原因だと思っていたものが、実は発作の初期症状だった可能性があります。
2024年に国際頭痛学会のグループが発表したレビューでも、
予兆期には脳活動や神経ネットワークの変化が起こり、
予兆症状の一部が誘因と誤って認識されている可能性が指摘されています。
もちろん、本当の誘因まで否定するわけではありません。
睡眠不足、ストレス、ホルモン変化などは、
片頭痛発作が起こる閾値を下げる可能性があります。
大事なのは、「頭痛の前にあったこと=頭痛の原因」と決めつけないことです。
これは患者指導にも関わります。
「それを食べると頭痛になるなら、全部やめましょう」と指導を重ねれば、
患者さんの生活はどんどん狭くなります。
頭痛ダイアリーを見るときも、「何をしたら頭痛になったか」だけではなく、
「その前から何か変化は始まっていなかったか」まで見る。
ちょっとした違いですが、片頭痛の見え方が変わります。
③ 片頭痛は血管が広がる病気だけでは説明できない
「片頭痛って、血管が広がって痛くなるんですよね?」
患者さんから聞かれることがあります。
以前は片頭痛と血管の関係がかなり強調されていました。
でも現在の片頭痛を、単純な血管拡張だけで説明することはできません。
現在、片頭痛は遺伝的・後天的な要因を背景として、
複雑な感覚神経ネットワークと神経血管ネットワークが相互に作用する病気として
説明されています。
光や音などの感覚をどう処理するか。
三叉神経から痛みの情報がどう伝わるか。
脳を覆う髄膜がどう関わるか。
カルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP)などの神経ペプチドがどう働くか。
複数の仕組みが重なって、片頭痛発作が起こります。
この病態理解の進歩を象徴するのがCGRP関連薬です。
従来の片頭痛予防薬の多くは、
元々てんかんや高血圧などの別の病気に使われていた薬でした。
一方、CGRP関連薬は、
片頭痛の病態を調べる
→治療標的を見つける
→その標的を狙った薬を作る
という流れで生まれました。
Lancet総説でも、長年の病態研究が病態機序に基づく治療につながり、
片頭痛診療を変えてきたことを強調しています。
新しい薬が増えた。
それだけではありません。
片頭痛という病気の理解が、実際の治療に結びついた。
そこが大きな変化です。
④ 頭痛が50%減ったことで治療を終わりにしない
最後は現在の片頭痛診療の流れまで広げて考えてみます。
片頭痛の予防療法では、「月間片頭痛日数が50%以上減ったか」が
臨床試験も含めて指標としてよく使われます。
分かりやすい指標です。
でも、
月20日
↓
月10日
となった患者さんを考えてみてください。
確かに50%減っていて、「治療反応あり」です。
でも患者さんには、まだ月10日の片頭痛が残っています。
本当にこれで十分でしょうか。
国際頭痛学会は2025年の声明で、
相対的に何%改善したかだけではなく、
治療後にどれだけ片頭痛の負担が残っているかを見る必要性を強調しています。
「半分になったから効いていますね」で終わらず、
今、頭痛が月に何日残っているのか。
仕事に戻れたか。
家族との予定をキャンセルしなくなったか。
発作を心配せず予定を立てられるようになったか。
そこまで見て初めて、その患者さんにとって治療が十分だったのかが分かります。

明日から問診で変えたいこと
今回の総説を読んだからといって、明日から処方を全部変える必要はありません。
むしろ変えやすいのは問診です。
いつもの、「頭痛は月に何日ありますか?」に加えて、
「頭痛が始まる前に、何か変化はありませんか?」
「頭痛が治ったら、すぐ普段どおりに戻れますか?」
「頭痛のない日にも、片頭痛のせいで避けていることはありませんか?」
と聞いてみる。
治療中なら、
「半分に減ったか」ではなく「今、何日残っているか」も確認する。
これだけでも、それまで見えていなかった片頭痛の負担が見つかるかもしれません。
片頭痛は頭痛のある日だけの病気ではない
Lancet 2026は、片頭痛に何か全く新しい定義を与えた総説ではありません。
でも、片頭痛について現在分かっていることを一度俯瞰すると、
病気の見え方が少し変わります。
頭痛の前から発作は始まっているかもしれない。
痛みが消えても、まだ終わっていないかもしれない。
頭痛がない日にも、片頭痛が患者さんの行動を制限しているかもしれない。
そして治療で50%改善しても、まだ大きな負担が残っているかもしれない。
だから、片頭痛では「頭痛のある日」だけを診ない。
今回のLancet総説から、私が一つだけ持ち帰るならこれです。
片頭痛の診断から急性期治療、予防療法まで具体的な診療手順を知りたい方は、こちらの記事にまとめています。

参考文献
- Tassorelli C, Wang SJ, Pozo-Rosich P, Ashina M. Migraine. Lancet. Published online October 7, 2026.
PUBMED: https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/42843399/ - Sebastianelli G, Çimen Atalar A, Cetta I, et al. Insights from triggers and prodromal symptoms on how migraine attacks start: The threshold hypothesis. Cephalalgia. 2024;44(10):3331024241287224.
PUBMED: https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/39380339/ - Sacco S, Ashina M, Diener HC, et al. Setting higher standards for migraine prevention: A position statement of the International Headache Society. Cephalalgia. 2025;45(2):3331024251320608.
PUBMED: https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/39980456/