プラスグレルは急性期脳梗塞・TIAに有効か?クロピドグレルとの違いをACUTE-PRAS試験から専門医が解説
はじめに
急性期のアテローム血栓性脳梗塞やTIAの患者さんにDAPT(抗血小板薬2剤併用療法)を開始する際、「この患者さん、クロピドグレルで本当にしっかり効果が出ているだろうか?」と一度は考えたことがあるのではないでしょうか。
特に、クロピドグレルの効果に影響するCYP2C19遺伝子多型は東アジア人に多く、薬剤への反応性が低いことが懸念されます。
今回は、そんな臨床現場の疑問に光を当てる日本の最新論文「ACUTE-PRAS study」について、どこよりも分かりやすく、そして深く掘り下げて解説します。
この記事を読めば、プラスグレルの急性期脳梗塞における立ち位置が明確になります。
ACUTE-PRAS試験とは?最新論文の概要
まずは、本研究がどのような患者さんを対象に、何を比較し、何を評価したのか(PICO)を見ていきましょう。
- P (Patient): 発症48時間以内の急性期アテローム血栓性脳梗塞(NIHSS ≤10)または高リスクTIA(ABCD² ≥4 or 運動麻痺あり)の患者さん
- I (Intervention): プラスグレル (3.75 or 2.5 mg/日、loadingなし) + アスピリン
- C (Comparison): クロピドグレル (75 or 50 mg/日、loading投与(初回のみ300mg)は医師の裁量) + アスピリン
- O (Outcome):
- 主要評価項目: 投与5日目の血小板機能 (PRU値) をCYP2C19遺伝子多型別に評価
- 副次評価項目: HPR (高血小板反応性) の割合、新規脳梗塞の出現、短期的な安全性など
試験結果:プラスグレルはクロピドグレルより強力に
血小板機能を抑制
本研究は、日本の43施設で行われたランダム化比較試験(RCT)です。
今回の報告は、治療開始後5日目までの短期的な効果と安全性に焦点を当てています。
主要評価項目:投与5日目のPRU値
結論から言うと、血小板機能を示すPRU値は、プラスグレル群の方がクロピドグレル群よりも有意に低い結果でした。
これは、プラスグレルがより強力に血小板の働きを抑えていることを意味します。
さらに重要なのは、この効果がCYP2C19遺伝子多型(EM/IM/PM)によらず一貫していた点です。
つまり、クロピドグレルの効果が減弱しにくい遺伝子型(EM)を持つ患者さんにおいても、プラスグレルは安定した薬理効果を発揮したのです。
安全性:短期的な出血リスクは?
治療開始後5日目までの短期的な観察では、出血性イベントを含む有害事象の頻度は両群で同程度でした。ただし、これはあくまで短期間の評価です。
長期的な安全性については、プラスグレル承認に至った臨床試験であるPRASTRO試験を確認した方がよいでしょう。
【専門医の考察】この結果をどう臨床で活かすべきか?
さて、この結果を私たちの日常臨床にどう活かせばよいのでしょうか。
3つのポイントで考察します。
ポイント1:CYP2C19遺伝子多型に依存しない安定した効果
本研究の最大の業績は、日本の実臨床用量(負荷投与なし)で、プラスグレルの薬理学的な優位性を示した点です。
クロピドグレル低反応性が懸念される症例において、治療初期から確実な血小板抑制を期待できる有力な選択肢であることを示唆しています。
ポイント2:「代理マーカー」の限界と解釈の注意点
注意すべきは、本研究の主要評価項目がPRU値という「代理マーカー」である点です。
「PRU値が低い」=「脳卒中再発が少ない」と直結するわけではありません。
あくまで「血小板がしっかり抑制されている」ことを示したデータであり、臨床的なアウトカム(脳卒中再発や機能的予後)の改善効果を示したものではないことを理解しておく必要があります。
ポイント3:臨床アウトカムの報告が今後の鍵
今回の報告はDay 5までの薬理学的評価が中心で、臨床的なアウトカムは明らかではありません。
軽症脳梗塞 or 高リスクTIAに対するDAPT(クロピドグレル+アスピリン)の有用性を示したCHANCE試験のように90日以内の脳卒中発症率などの指標で良い結果が報告されるとよいのですが。
したがって、現時点で「DAPTは全例プラスグレルにすべき」と結論づけるのは早計です。
まとめ:明日からの臨床に役立つTake Home Message
- 確実な初期抑制: 急性期アテローム血栓性脳梗塞・TIAにおいて、日本の実臨床用量のプラスグレルは、CYP2C19遺伝子多型に関わらず、クロピドグレルより強力かつ安定した血小板抑制効果を示します。
- 臨床的意義は未確定: 本報告は「薬理学的効果」を示したものであり、脳卒中再発抑制などの「臨床的効果」を証明したものではありません。
- 実臨床での位置づけ: 治療初期の確実な血小板抑制を重視したい症例では有力な選択肢です。ただし、長期的なデータが揃うまでは、クロピドグレルでの再発例や不応が予測される例など、リスクなどを考慮した慎重な個別化が求められます。
参考文献
- Fujimoto S, Iguchi Y, Yamagami H, et al. P2Y12 Reaction Units With Prasugrel in Acute Large Artery Atherosclerosis and Transient Ischemic Attack: An Open-Label Randomized Controlled Study, ACUTE-PRAS. Circ J. Published online May 16, 2025. doi:10.1253/circj.CJ-24-0949
PubMed URL: https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/40383626/
