てんかん

特発性全般てんかんの女性、第一選択薬はレベチラセタム?ラモトリギン?

Neurolog管理人

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はじめに

脳神経内科の日常診療において、妊娠の可能性のある若い女性のてんかん治療は、特に慎重な薬剤選択が求められます。中でも特発性全般てんかん(Idiopathic Generalized Epilepsy, IGE)では、有効なバルプロ酸(デパケン®)が催奇形性の観点から使いにくい場面が多く、レベチラセタム(イーケプラ®)とラモトリギン(ラミクタール®)が重要な選択肢となります。

では、この2剤のうち、どちらを第一選択とすべきでしょうか?この重要な臨床疑問に対し、大規模な観察研究が2023年にJAMA Neurology誌で報告されました。

今回はその最新エビデンスを、研究デザインのポイントも交えながら詳しく解説します。

まず結論から:忙しい臨床医のための要点

  • 主要評価項目である「治療失敗」のリスクは、レベチラセタム(LEV)がラモトリギン(LTG)より有意に低いという結果でした(調整後HR 0.77)。
  • ただし、このLEVの優位性は若年性ミオクロニーてんかん(JME)のサブグループでのみ認められ、欠神てんかんや全般性強直間代発作(GTCA)のみのタイプでは有意差はありませんでした。
  • 副次的な解析である「12ヶ月発作寛解率」でもLEVが有利でした(調整OR 1.68)。
  • 副作用は、行動変化や眠気はLEVで、皮疹はLTGで多い傾向にありました。
  • 臨床的な結論:JMEの女性ならLEVを第一候補に。それ以外のタイプでは効果は同等と考え、副作用プロファイルや患者背景に応じて使い分けるのが現実的です。

研究の概要(PICO & デザイン)

  • P (Patient): 妊娠可能年齢(10~50歳)で、新たにIGEと診断され、LEVまたはLTGの単剤治療を開始した女性患者 543名(LEV群 312名, LTG群 231名)。
  • I (Intervention): レベチラセタム(LEV)による初回単剤治療
  • C (Comparison): ラモトリギン(LTG)による初回単剤治療
  • O (Outcome):
    • 主要評価項目: 治療失敗(Treatment Failure, TF)までの時間。TFは、効果不十分による他剤への変更・追加、または副作用による中止と定義。
    • 副次評価項目(感度分析): 12ヶ月間の発作完全寛解。
  • Design: 4か国(イタリア、スペイン、ポルトガル、オーストラリア)の22施設が参加した、大規模な多施設共同・後ろ向きコホート研究(1994年~2022年)。

研究手法のポイント:傾向スコアの逆確率重み付け(IPTW)

この研究はランダム化比較試験(RCT)ではないため、医師が患者背景によって薬剤を使い分ける「交絡バイアス」が生じます。このバイアスを統計的に調整するため、傾向スコアの逆確率重み付け(Inverse Probability of Treatment Weighting, IPTW) という手法が用いられました。

これは、各患者が実際に受けた治療(LEVまたはLTG)を割り振られる確率(傾向スコア)を計算し、その逆数を「重み」として解析に用いる手法です。これにより、背景因子が均等に分布する擬似的な集団を作り出し、より公平に薬剤の効果を比較することができます。

主な結果

1. 主要評価項目:治療失敗リスク

解析対象者全体では、LEV群はLTG群に比べて治療失敗のリスクが23%有意に低いという結果でした。

  • IPTW調整済みハザード比 (HR): 0.77 (95%信頼区間[CI] 0.59–0.99)
2. サブタイプ別解析

IGEをサブタイプ別に解析すると、結果は大きく異なりました。

  • 若年性ミオクロニーてんかん (JME): LEV群がLTG群より治療失敗リスクが53%も低く、明らかな優位性を示しました(HR 0.47 [95%CI 0.32–0.68])。
  • 欠神てんかん or 全般性強直間代発作のみのタイプ: 両群間で治療失敗リスクに有意な差はありませんでした
3. 感度分析:12ヶ月発作寛解

治療開始後12ヶ月の時点で発作が完全に抑制されていた割合は、LEV群の方がLTG群よりも有意に高いことが示されました。

  • IPTW調整済みオッズ比 (OR): 1.68 (95%CI 1.15–2.44)
4. 安全性
  • 有害事象の報告は、全体としてLEV群の方が多い傾向にありました(LEV 28.2% vs LTG 18.1%)。
  • 副作用の内訳を見ると、易刺激性などの行動変化や傾眠はLEV群に多く、皮疹などの皮膚症状はLTG群に多いという、既知のプロファイルと一致する結果でした。
  • LTG群では、ミオクロニー発作が悪化した例が3.3%に見られ、LEV群(0.6%)より多いことも注目されます。

どう臨床に落とし込むか?

この研究結果から、以下のような実臨床での使い分けが考えられます。

  1. JMEの女性なら、LEVを第一候補にミオクロニー発作への高い有効性と、LTGで懸念されるミオクロニー悪化のリスクを考慮すると、JMEに対してはLEVを優先的に選択する妥当性が示されました。
  2. 欠神てんかんやGTCAのみのタイプでは、効果は同等と考えるこの場合、薬剤選択の決め手は副作用プロファイルになります。精神症状(気分の落ち込みやイライラなど)のリスクを避けたい患者さんではLTGを、皮疹のリスク(特にアジア人で多いHLA-B*1502との関連など)を避けたい場合はLEVを選択するなど、患者さん個別の特性に応じた判断が重要です。
  3. 妊娠可能年齢の女性への推奨英国のNICEガイドライン(2022年版)でも、妊娠の可能性がある女性の全般てんかんに対し、バルプロ酸の使用を厳格に制限した上で、LEVまたはLTGを第一選択肢の一つとして推奨しており、本研究の結果はこの考え方を後押しします。

本研究の限界

  • 後ろ向きの観察研究であるため、IPTWで調整してもなお、測定されていない交絡因子(例:服薬アドヒアランスなど)が結果に影響した可能性は否定できません。
  • JME以外のサブタイプでは、症例数が少なく、真の差を検出できなかった(検出力不足)可能性も残ります。

Take Home Message

  • 妊娠の可能性のある若年性ミオクロニーてんかん(JME)の女性には、第一選択薬としてレベチラセタムがラモトリギンより推奨されます。
  • 欠神てんかんやGTCAのみのタイプでは、両剤の効果は同等と考えられ、患者さんの精神症状や皮疹のリスクなどを考慮した個別化選択が重要です。
  • 本研究の主要評価項目は「治療失敗」であり、「12ヶ月寛解」は副次的評価である点を理解して結果を解釈することが大切です。

参考文献

Cerulli Irelli E, Cocchi E, Morano A, et al. Levetiracetam vs Lamotrigine as First-Line Antiseizure Medication in Female Patients With Idiopathic Generalized Epilepsy. JAMA Neurol. 2023;80(11):1174-1181. doi:10.1001/jamaneurol.2023.3400 PUBMED: https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/37782485/

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    神経内科専門医・脳卒中専門医
    急性期市中病院で勤務する脳神経内科医です。 得意分野は脳卒中・頭痛です。神経内科専門医・脳卒中専門医で、頭痛専門医を目指して研鑽中です。mJOHNSNOW Fellow(2期)。 医学論文をわかりやすく解説し、明日から使える実践知を発信します。個別の医療相談にはお答えできかねます。本サイトの投稿は個人的見解です。
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