頭痛

IHS 2025ガイドラインで読む片頭痛へのニューロモデュレーション:レリビオン®・Cefaly・ネリヴィオ®のエビデンスと日本での立ち位置 🧠

Neurolog管理人
スポンサーリンク

はじめに

片頭痛治療において、非薬物療法であるニューロモデュレーション(Neuromodulation)の重要性が高まっています。

2025年10月に、国際頭痛学会(IHS)によるエビデンスに基づく最新のガイドライン (GL) が Cephalalgia 誌に発表され、これらのデバイスの推奨レベルが示されました。

また、日本国内の状況も整理が必要です。

日本では「レリビオン® (Relivion®)」が2023年12月にPMDA(医薬品医療機器総合機構)により「急性期治療」用として承認されました。一方で、「ネリヴィオ® (Nerivio®)」は国内未承認(2025年10月時点)、「Cefaly®(セファリー®)」も未承認(自費診療で流通)という状況です。

今回は、このIHS 2025 GLの枠組みを用いながら、主要デバイスの根拠となったRCT(臨床試験)を比較し、日本での臨床的な「立ち位置」を正確に整理します。

そもそも「ニューロモデュレーション」とは? なぜ効く?

まず、今回のテーマである「ニューロモデュレーション(Neuromodulation; 神経調節)」について、基本的な概念をおさらいします。

ニューロモデュレーションとは?

非常に分かりやすく言えば、「特定の神経回路に、電気や磁気などの物理的な刺激を与え、その活動を“調節”する治療法」の総称です。

  • 薬物療法との違い: 薬物療法が、血液を介して全身に化学物質(薬)を届け、神経細胞の受容体などに作用する「化学的」アプローチであるのに対し、ニューロモデュレーションは、狙った神経に直接(あるいは間接的に)働きかける「物理的」アプローチです。
  • 可逆性: 基本的には、刺激を加えている間だけ神経活動が変化し、刺激をやめれば元に戻る「可逆的」な治療です。(※予防治療は、長期的な使用により神経回路の可塑的変化(体質改善)を目指します)
  • 「侵襲的」と「非侵襲的」: 脳神経外科領域では、体内に電極を植え込む「侵襲的」な治療(例:パーキンソン病に対する脳深部刺激療法(DBS)や、難治性疼痛に対する脊髄刺激療法(SCS))も含まれます。 しかし、今回片頭痛で取り上げるのは、すべて皮膚の上から刺激する「非侵襲的 (Non-invasive)」なデバイスです。安全性が高く、在宅で患者さん自身が使用できるのが特徴です。

片頭痛になぜ効くのか?(作用機序の仮説)

片頭痛のメカニズムは複雑ですが、痛みの中心には「三叉神経系の過剰な興奮」と「脳の過敏性」があります。ニューロモデュレーションは、主に以下の3つの機序でこれらにアプローチすると考えられています。

  1. ゲートコントロールセオリー(急性期)
    • 対象: レリビオン®(三叉神経+後頭神経)、Cefaly(三叉神経)
    • 機序: 痛みを伝える「細い神経線維(C線維など)」と、触覚など(ピリピリ感)を伝える「太い神経線維(Aβ線維など)」は、脳幹の同じ中継所(三叉神経脊髄路核)に入力されます。
    • デバイスで「太い線維」を意図的に刺激すると、そちらの信号が優先され、中継所のゲートが閉じて「細い線維」からの痛みの信号が脳に伝わるのをブロックします。「痛いところをさすると痛みが和らぐ」のと同じ原理を、電気的に行っているイメージです。
  2. CPM (Conditioned Pain Modulation) の賦活(急性期)
    • 対象: ネリヴィオ®(上腕の末梢神経)
    • 機序: これは「遠隔地(腕)の刺激で頭痛を抑える」機序です。
    • 私たちの脳には、ある部位に(痛くない程度の)刺激が加わると、全身の痛みを抑えるために作動する「下行性疼痛抑制系」という、“脳内痛み止めシステム”が備わっています。これがCPMです。
    • ネリヴィオ®は、腕の神経を刺激することで、このCPMのスイッチを意図的にONにし、脳幹から脊髄へ「痛みを抑えろ」という指令を出させ、結果として頭部の片頭痛の痛みを和らげます。
  3. 中枢性の調節・鎮静化(予防)
    • 対象: Cefaly(予防モード)、ネリヴィオ®(予防モード)
    • 機序: 片頭痛患者さんの脳は、慢性的に過敏な状態(光や音、匂いに敏感になったり、少しの刺激で痛みを感じやすくなったりする状態)にあると考えられています。
    • デバイスの刺激を毎日繰り返し(例:Cefaly予防モードは1日20分)、脳に信号を送り続けると、神経回路の可塑性(変化)が促されます。
    • これにより、脳の過剰な興奮性がリセットされて「鎮静化」したり、前述のCPM(脳内痛み止めシステム)が「強化」されたりすることで、片頭痛発作が起きにくい「体質」へと導くと考えられています。

最新版:IHS 2025 GLの推奨レベル

まず、今回発表されたIHS 2025 GLの結論から見ていきましょう。

このGLは、GRADE法(エビデンスの質を評価し、推奨度を決定する世界標準の手法)を用いています。

結論として、IHSは主要な非侵襲的ニューロモデュレーションに対し、以下のように「弱い推奨 (Weak Recommendation)」を出しました。

  • 急性期治療:
    • SAVI Dual (sTMS)
    • Cefaly (e-TNS)
    • Relivion (eCOT-NS)
    • Nerivio (REN)
  • 予防治療:
    • gammaCore (nVNS)
    • Cefaly (e-TNS)
    • Nerivio (REN)

なぜ「弱い」推奨なのか? (EBM的視点)

「推奨」と聞くと強く聞こえますが、GRADE法における「弱い推奨」は、「エビデンスに不確実性があるため、患者さんの価値観や好みによって選択すべき」という意味合いを持ちます。

IHSが推奨を「弱い」に留めた理由は、根拠となったRCTのエビデンスの質が「非常に低い〜中等度」と評価されたためです。

  • 主な限界点 (Limitation):
    1. 盲検性の課題: デバイス特有のピリピリ感などにより、患者さんが実刺激かシャム刺激(偽刺激)か判別できてしまうリスク(盲検性の破れ)。
    2. シャム刺激(プラセボ)反応の高さ: 偽刺激群でも一定の効果(プラセボ反応)が認められる。
    3. サンプルサイズ: 多くの試験が比較的小規模(Nが小さい)である。

一方で、これらのデバイスは忍容性が総じて良好であり、薬物相互作用の懸念がないという大きな利点があります。そのため、エビデンスの質に限界はありつつも、「弱い推奨」としてリストアップされたのです。

【日本承認】レリビオン® (Relivion®) [急性期]

  • デバイス: 頭部に装着し、三叉神経と後頭神経を同時に刺激 (eCOT-NS: external Concurrent Occipital and Trigeminal Neurostimulation)。
  • 日本での状況: PMDA承認済み(2023年12月6日, 急性期治療)。PMDA審査報告書では、薬物療法を補完するオプションと位置づけられています。
  • IHS 2025 GL: 急性期に対し、「弱い推奨」

根拠となったRCT:
RIME試験 (Tepper SJ, et al. Headache. 2022)

  • P (Patients): 片頭痛患者
  • I (Intervention): レリビオン®実刺激 (eCOT-NS) 1時間
  • C (Control): シャム刺激
  • O (Outcome):
    • 主要評価項目: 2時間後の痛み軽減 (Pain relief)
    • 副次評価項目: 2時間後の疼痛消失 (Pain freedom)
  • 結果:
    • 2h 痛み軽減: 60.0% (実刺激群) vs 37.3% (シャム群) (p=0.018)
    • 2h 疼痛消失: 46.0% (実刺激群) vs 11.8% (シャム群) (p<0.001)

【国内未承認】ネリヴィオ® (Nerivio®) [急性期・予防]

  • デバイス: 上腕に装着し、遠隔電気神経調節(REN)を行う。腕への刺激で脳幹のCPM (Conditioned Pain Modulation) を賦活化させます。
  • 日本での状況: 国内未承認(2025年10月時点)。
  • 海外での状況: 米国FDAでは急性期・予防のデュアル用途で承認/認可済み。特に2024年、適用年齢が8歳以上へと拡大され、小児片頭痛の非薬物療法として注目されています。
  • IHS 2025 GL: 急性期および予防に対し、「弱い推奨」

根拠となったRCT (急性期):
Yarnitsky D, et al. (Neurology. 2019)

  • P (Patients): 片頭痛患者
  • I (Intervention): ネリヴィオ®実刺激 (REN)
  • C (Control): シャム刺激
  • O (Outcome):
    • 主要評価項目: 2時間後の疼痛消失 (Pain freedom)
    • 副次評価項目: 2時間後の痛み軽減 (Pain relief)
  • 結果:
    • 2h 疼痛消失: 37.4% (実刺激群) vs 18.4% (シャム群) (p=0.001)
    • 2h 痛み軽減: 66.1% (実刺激群) vs 38.8% (シャム群) (p<0.001)

【国内未承認】Cefaly(セファリ) [急性期・予防]

  • デバイス: 眉上(おでこ)に装着し、三叉神経V1(上窩枝)を刺激 (e-TNS)。
  • 日本での状況: 国内未承認(自費診療で流通)。PMDAの文書(レリビオン®の審査報告書など)では「海外承認の類似機器」として言及されるに留まります。
  • IHS 2025 GL: 急性期および予防に対し、「弱い推奨」

根拠となったRCT

① 予防 (PREMICE試験; Neurology. 2013)

  • PICO: P: 片頭痛患者, I: Cefaly予防モード, C: シャム刺激, O: MMD(月間片頭痛日数)変化 (主要), 50%レスポンダー率 (副次)
  • 結果:
    • MMD変化: p=0.054(主要評価項目は統計的有意差なし)
    • 50%レスポンダー率: 38.2% (実刺激群) vs 12.1% (シャム群) (p=0.023)

② 急性期 (ACME試験; Cephalalgia. 2019)

  • PICO: O: 1時間後の痛み軽減 (Pain relief) (主要)
  • 結果: シャム群と比較し、1時間後の「痛み軽減」で有意差あり。

比較と臨床的視点(まとめ)

最新の状況を一覧表に整理します。

デバイス日本での状況 (2025/10時点)刺激部位IHS 2025 GL 推奨主なRCT(急性期) 2h 疼痛消失
レリビオン®PMDA承認 (急性期)頭部 (後頭神経+三叉神経)弱い推奨 (急性期)46.0% vs 11.8% (RIME)
ネリヴィオ®未承認 (米: 8歳以上, 急性+予防)上腕 (REN/CPM)弱い推奨 (急性期/予防)37.4% vs 18.4% (Yarnitsky)
Cefaly®未承認 (自費流通)眉上 (三叉神経 V1)弱い推奨 (急性期/予防)(ACME試験は1h痛み軽減が主要)

批判的吟味のポイント (Head-to-head試験は無い)

  • レリビオン® (46.0%) とネリヴィオ® (37.4%) の「疼痛消失」の絶対値を直接比較はできません。対象集団や試験デザイン(主要評価項目の設定)が異なるためです。
  • 両試験とも、シャム群に対して明確な優越性を示しています。

Take Home Message 🏠

  • 最新のIHS 2025 GLは、主要なニューロモデュレーション機器(レリビオン®, ネリヴィオ®, Cefaly等)に対し、「弱い推奨」を提示しました。
  • 「弱い推奨」の背景には、忍容性の高さ(利点)と、エビデンスの質の限界(盲検性やN数の課題)があります。
  • 日本国内の承認状況(2025年10月時点)の理解が極めて重要です。
    • レリビオン®: 唯一、急性期治療でPMDA承認。RIME試験 (疼痛消失46.0%) が根拠。
    • ネリヴィオ®: 国内未承認。米国では8歳以上・デュアル用途(急性+予防)で承認されており、将来的な選択肢として注目されます。
    • Cefaly: 国内未承認(自費診療)。予防 (PREMICE)・急性期 (ACME) ともにRCTエビデンスがあります。
  • 実臨床では、承認機器であるレリビオン®を、PMDAの示す通り「薬物療法不応・不耐・禁忌例」への補完的オプションとして検討するのが現実的な第一歩となります。

参考文献

  1. Yuan H, Orr SL, Al-Karagholi MAM, et al. International Headache society evidence-based guidelines on the use of non-invasive neuromodulation devices for the acute and preventive treatment of migraine. Cephalalgia. 2025;45(10):3331024251388377. doi:10.1177/03331024251388377
    PUBMED: https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/41117312/
  2. Tepper SJ, Grosberg B, Daniel O, et al. Migraine treatment with external concurrent occipital and trigeminal neurostimulation-A randomized controlled trial. Headache. 2022;62(8):989-1001. doi:10.1111/head.14350
    PUBMED: https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/35748757/
  3. Yarnitsky D, Dodick DW, Grosberg BM, et al. Remote Electrical Neuromodulation (REN) Relieves Acute Migraine: A Randomized, Double-Blind, Placebo-Controlled, Multicenter Trial. Headache. 2019;59(8):1240-1252. doi:10.1111/head.13551
    PUBMED: https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/31074005/
  4. Schoenen J, Vandersmissen B, Jeangette S, et al. Migraine prevention with a supraorbital transcutaneous stimulator: a randomized controlled trial. Neurology. 2013;80(8):697-704. doi:10.1212/WNL.0b013e3182825055
    https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/23390177/
  5. Chou DE, Shnayderman Yugrakh M, Winegarner D, Rowe V, Kuruvilla D, Schoenen J. Acute migraine therapy with external trigeminal neurostimulation (ACME): A randomized controlled trial. Cephalalgia. 2019;39(1):3-14. doi:10.1177/0333102418811573
    PUBMED: https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/30449151/
※本ブログは、私個人の責任で執筆されており、所属する組織の見解を代表するものではありません。

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

About me
Neurolog
Neurolog
神経内科専門医・脳卒中専門医
急性期市中病院で勤務する脳神経内科医です。 得意分野は脳卒中・頭痛です。神経内科専門医・脳卒中専門医で、頭痛専門医を目指して研鑽中です。mJOHNSNOW Fellow(2期)。 医学論文をわかりやすく解説し、明日から使える実践知を発信します。個別の医療相談にはお答えできかねます。本サイトの投稿は個人的見解です。
Recommend
こちらの記事もどうぞ
記事URLをコピーしました